査読基準

「地域環境の未来」査読基準

「地域環境の未来」編集委員会

(基本的な考え方)

「地域環境の未来」の査読は、地域の環境課題の解決と持続可能な発展に役立つ知識技術、地域の方々に参考にしていただける各地の活動事例についての多様な報告を、可能な限り幅広く掲載することを目指すものです。したがって、査読は基本的に、知識ユーザーであるステークホルダーの視点から記事の内容を改善し、掲載できる水準を可能な限り達成することを目指して行われます。査読にあたっては、以下の各項目について査読者の見解を開示し、具体的な改善点を明確に記述することによって、記事の内容の改善に資することが求められます。最終的に掲載拒否の判断にいたる場合には、正当かつ説得力のある根拠が必要です。

(査読者の選考と査読過程の公開)

論文および解説については、編集委員会が専門分野、活動内容などを考慮して選考する専門家2名が本文全体(「ステークホルダーのための要約」を含む)を査読し、知識ユーザーである関連分野のステークホルダー1名が「ステークホルダーのための要約」を査読します。活動報告については、専門家1名、ステークホルダー1名が査読を担当します。査読者は原則として実名を公開します。また、査読意見と編集委員会の判断、およびこれに対する著者の応答も、採択された原稿とともに公開します。これらの措置は公平かつ透明性の高い査読を実現するためです。

(掲載基準)

下記の各項目について10点満点で評価を行い、全査読者の評価の平均点が7点以上の特に優れた項目が複数あることを条件として、編集委員会が個別のコメントの内容を加味して総合的に掲載の可否を判断します。査読者は、各項目について評価を行うだけでなく、必要に応じて具体的なアドバイスを行い、原稿の改善を促すことを求められています。編集委員会は必要に応じて、査読者の見解をもとに改善のためのアドバイスを行います。

1.         論文および解説

1-1.科学者・専門家による査読基準

1-1-1.(科学的な水準)

論文と解説の科学的水準は、記述や内容が地域の多様なステークホルダーによる意思決定の判断基準として信頼できる妥当性を達成していることを基準とします。科学的な新規性・革新性を問うものではありません。また、地域のステークホルダーによる取り組みなどの価値を、普遍的な科学に翻訳して発信する試みも歓迎します。

1-1-2.(研究の設計と説明責任)

地域に固有の歴史、文化、在来の知識技術を十分に踏まえ、地域がかかえる問題の構造や価値観、意思決定システムに整合するように研究が設計されていることが重要です。地域のステークホルダーの方々が、地域社会の現状の中で具体的に活用できる知識技術が探求されていることを重視します。地域のステークホルダーとの情報共有と合意のもとに研究が行われ、本ジャーナルへの掲載と並行して、研究成果が地域のステークホルダーに共有されるための、なんらかの方策が講じられていることが求められます。

1-1-3.(ステークホルダーのための要約)

「ステークホルダーのための要約」は、知識ユーザーによる理解・解釈・活用を助けるように、研究成果をわかりやすく解説していることが必要です。また、地域の環境課題の解決と持続可能な発展に具体的に貢献できる知識技術が簡潔かつ明瞭に記述されていることが重要です。

1―1-4.(知識技術の性質)

地域のステークホルダーによる判断や意思決定に科学的な根拠を与える内容、生活と生業の現場で活用できる知識技術、環境課題の解決と持続可能な社会の構築に役立つ社会技術など、ステークホルダーによる課題解決に貢献できる内容が含まれていることが必要です。

1-1-5.(不確実性と適用範囲)

研究成果に内包される不確実性と、解明が不十分な点が、明確に意識され、説明されていることが必要です。また、成果が適用可能な範囲が説明され、異なる条件への一般化の可能性についても検討されていることが求められます。

1-2.ステークホルダーによる査読基準(ステークホルダーのための要約)

1-2-1.(内容のわかりやすさ)

「ステークホルダーのための要約」は、専門分野になじみが薄いステークホルダーにとっても、専門知識が十分でなくても容易に理解・活用が可能であるように、わかりやすく書かれていることが必要です。

1-2-2.(説得性と納得性)

知識技術の内容が十分な根拠と説得力をもって論理的に説明され、多様なステークホルダーが結論や展開されているアイデアについて納得できる可能性をもつことが必要です。

1-2-3.(有効性)

ステークホルダーの目から見て、現場での活動指針となるアイデアやビジョン、地域の環境や社会の現状理解を助ける知見、具体的な活動に活用できる知識技術などが、少なくともひとつ以上、提示されていることが必要です。

1-2-4.(合意可能性と実現性)

多様な価値観や利害をもつステークホルダーが、仮に時間がかかっても受け入れ、実現できる可能性が認められること、意思決定や合意形成に役立つツールやビジョンが示されていることを重視します。

1-2-5.(解明が不十分な点、応用の限界)

はっきりわかっていない点、不確実な点について、明瞭に意識され、説明されていること、研究成果を応用できる範囲、知識技術の不適切な活用の可能性について、検討されていることが必要です。

2.         活動報告(専門家・ステークホルダーの査読者に共通)

2-1.(クリエイティビティと独創性)

地域社会が直面する社会経済的な制約、自然資源利用における困難、人材不足、価値の多様性と合意形成の困難などの制限要因を的確に把握し、それらを克服するための活動が展開されていることが重要です。このような活動のアイデアやプロセス、そこに活用された手法や技術、活動の成果を報告し、それぞれ固有の課題を抱えるさまざまな地域社会において、活動の参考となりうる知見を提供することが不可欠です。

2-2.(多様なステークホルダーの協働)
多様なステークホルダーがそれぞれの立場から参加・協働して成し遂げられた活動成果であることが、明瞭に示されていることが必要です。異なる立場や考え方をもつ人々を受け入れ、多様な考えかたやアイデアを取り込んでいることがたいせつです。

2-3.(硬直化をもたらさない柔軟な取り組み)

狭い視野や価値観に縛られることなく、地域社会の多様なアクターの相互関係や差異を深く理解して、多様なステークホルダーが現実に合意可能なアイデアや、協働して実現可能な目標や手法を大胆に取り入れて活動を推進していることが、はっきりと示されていることが必要です。

2-4.(人材の活用と育成)

地域のレジデント型研究者やさまざまな立場のトランスレーターなど、持続可能な社会の構築に役立つ多様な知識技術を有する地域の人材を発掘し活かしていること、将来の地域社会の中核となる世代の育成に向けたビジョンを持ち、活動に人材育成の側面を取り入れていることが必要です。

2-5.(活動の限界と将来の課題の認識)

報告されている活動で達成できたことだけでなく、残された未解決の課題と将来発生しうる新たな課題について、明瞭に自覚され、説明されていることが必要です。また、これらを克服するための将来のビジョンが提示され、引き続き検討すべき具体的な課題と実施すべき活動が示されていることが重要です。

2011年12月13日